2013年9月30日月曜日

本を読む(4)


林 俊郎 著 「ダイオキシン情報の虚構」(健友館)

 

 15年前のあの大騒ぎしたダイオキシン騒動は、意図的に歪められた情報操作による“虚構だった!”。著者は、この本の中で、その虚構の事実を、具体的に次々に暴いて論証している。

 この本の帯には、「ダイオキシン情報の通説をくつがえす!」「生活を科学する目でみつめ直した、小さなゼミからの証言」とある。著者は目白大学教授で、生化学の専門家として細菌の代謝に関する生化学の研究論文を多数執筆しておられる。『流行する肺がん』(健友館)等の著者としても知られる。

 〔「所沢産廃銀座での赤ちゃん急増死」、「ダイオキシンに汚染された母乳によりアトピー急増」、これらは根も葉もない悪質なねつ造情報であった。この情報を真に受けて、「ダイオキシン汚染は、一刻の猶予もならない危機的状況を迎えた」として、150名を超える女性弁護士が立ち上がり「国民会議」を結成、引き続いて200名近い超党派の議員が国会で「議員連盟」を結成、ついに、政府はダイオキシン法案を成立させたが、その背後に、米国のしたたかな経済戦略の罠が!〕(裏表紙から)

 著者は、所沢市周辺のゴミ焼却問題に端を発して、NGOが証拠として作成したグラフには作為があり、「所沢赤ちゃん死急増説は虚構である」と、15頁を割いてその欺瞞性を暴いている。

 私がある友人に、この本のことを紹介したところ、すぐ出てきた言葉が、あのベトナム戦争の“枯葉剤の被害者”として盛んに喧伝されたベトちゃんとドクちゃんのことであった。枯葉剤の悲劇を否定することはできないではないか、という反応であった。実は、最初は私も同じような感じをもったので、友人の反応はよく理解できる。著者はいう。「実は、これらの人々を盲目的に洗脳させる、確かな仕掛け人がいる」

 問題のベトちゃんとドクちゃんであるが、あの二重合体の子どもは、昔から「シャム双生児」と呼ばれ、タイには、100年も前に、イン・チャンという二重合体の子どもがいたことが知られている。タイのシリラート病院外科博物館で、ホルマリン漬けのシャム双生児がたくさん展示されている。ベトナムだけでなく、枯葉剤も関係なく、農薬も使用されていなかった時代から、このような二重合体の子どもがある頻度で発生している(197頁)。

 イタリア・ミラノ市郊外にある小さな町セベソで、1976年7月10日、枯葉剤に使われていた除草剤2,4,5-Tの原料となるTCP(トリクロフェノール)製造工場で反応塔温度制御を誤り、高温・高圧となって反応塔の安全弁が破損し、ダイオキシンを高濃度に含むTCPが安全弁を突き破って吹き出すという大事故が発生した。吹き出した粉が幅700メートル、長さ2キロメートルの大きさの雲となって2000人の居住区域を覆った。この農薬会社は、ベトナム戦争の時代に枯葉剤の原料を米国に供給していた会社であった。このときのダイオキシンは、推定130キログラム、ベトナム戦争で10年間にばら撒かれた量に匹敵するダイオキシン量であったといわれている。この降り注ぐ白い粉の危険性については、事故後10日間も住民に一切知らせず、子どもたちは面白がって白粉の霧の中で遊んだ(125頁以下)。

 当時のセベソの住民の血液、3万検体が凍結保存され、追跡調査が現在も根気よく続けられている。そして今まで、セベソの住民の中から1人の犠牲者もでていないだけでなく、流産、死産、及び奇形児の発生並びにがん死の増加の兆候も全く認められていない(5頁)。

 著者は、踊らされたダイオキシン騒動から、日本民族の弱点をいう。①権威に弱い。②論理的に科学するという素養に欠ける。③脅しに弱い(38頁)

 法律家も“まんまと騙された”というダイオキシン情報の虚構騒動であった、というのであるが、この大騒ぎで大儲けしたものがいたといい、驚くべき事実が紹介されている(100頁以下)。

 林秀彦氏はいう。「論じる神に見放された民族は、論なくしては生存不可能な世界に突き放されて以来、衰弱の一途をたどっている。その存在は風前の灯火だが、この「存在」という言葉ですら明治に初めてbebeingから翻訳造語されたもので、この概念は日本人にはなかったものである」(『日本人はこうして奴隷になった』170頁 成甲書房)と。

 次々に起こる“偽情報”に騙されないように、特に我々日本人はこの本を熟読する必要があると思われる。

2013年9月25日水曜日

朝日新聞投書(2004年5月5日)から


たばこを厚生労働省の管轄に

                 たばこ病訴訟弁護団長 伊佐山芳郎
                     (「嫌煙権確立をめざす法律家の会」代表世話人)

 (今から9年前に朝日新聞の投書欄に掲載されたものです。データがやや古くなっていますが、ここで指摘した厚生行政の遅れは、現在もまだ続いています ので、のままご紹介します)                      

 5月5日の「なんでだろう、たばこ吸う人」を投書した高橋大樹君(中学生)へ。
「たばこを吸う人はいろんな病気になりやすいし、周りの人はもっと健康を害する、どうして、そんな悪いものを吸うことが許されるのか」という君の疑問は鋭い指摘です。

 たばこ事業法は、「我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もって財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資する」とその目的を定めています(第1条)。日本では、たばこは財政収入源の問題で、健康問題の視点がないのです。たばこの管轄が厚生労働省ではなく財務省となっているのは、世界に例がなく時代錯誤です。

 国民の命や健康を大事にしなければならない日本の政府は、外国では「肺がんの原因」等表示されている喫煙の有害表示・警告表示を、「吸いすぎに注意」などというあいまい表示でごまかしてきました。人々にたくさんたばこを吸わせて、財政収入を増やそうという国の誤った政策が、「国際たばこ枠組み条約」によって、今大きく変更を迫られています。

 厚生労働省の報告によれば、たばこを吸わなければ死なないですむ「超過死亡数」が1995年時9万5000人(年間)と発表されています。たばこ事業法を廃止して、厚生労働省の管轄にすべきです。25年前からの私たち嫌煙権運動の主張です。